【コラム】著作隣接権とは
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AIイラストに関連する著作権についての連載コラム2記事目です。
コラムを書いてくださるのは、著作権と契約に関する法務サービスを提供する「メル行政書士事務所」代表の佐藤洸一さんです。
前回の記事:【コラム】機械学習と原作者の著作権について
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著作隣接権とは
「著作隣接権」という権利についてご存知でしょうか。「著作権」とは、絵画・音楽・書籍・建築など「創作」をした場合に創作者に与えられる権利ですが、これに対し「著作隣接権」とは、そうした著作物を「伝達」した者に与えられる権利です。音楽家の演奏を録音してレコードを製作した場合、レコード製作にも相応の費用の投資が必要となることから、このような伝達に寄与する行為について法律上の保護を与える権利です。したがって、レコード製作者は、そのレコードを複製したりインターネット上で配信したりすることができる一方、レコード製作者の許可なく第三者がこうした行為を行うと著作隣接権の侵害となります。
上記のように著作隣接権は、著作物を伝達した者に与えられることから、著作隣接権者としては「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の四類型が定められています。これらのいずれかに当てはまる伝達行為をした場合、著作隣接権の保護を受けることができます。
著作隣接権の支分権
著作隣接権として認められている権利は、以下の通りです。すべての著作隣接権者に全部の権利が認められているわけではなく、著作隣接権者の類型に応じて、それぞれその一部が認められています。
- 録音権(91条) 実演を録音又は録画する権利
- 放送権(92条) 実演を放送する権利(テレビ、ラジオ等)
- 有線放送権(92条) 実演を有線放送する権利(CATV、CAラジオ等)
- 送信可能可権(92条の2) 実演を送信可能可する権利(インターネット配信等)
- 譲渡権(93条) 実演の録画物や録音物を譲渡する権利(最初の譲渡のみ)
- 貸与権(94条) 商業用レコードを貸与する権利(販売後1年間のみ)
- 複製権(96条) 商業用レコードを複製する権利
なお録音権の許諾を受けた場合、放送権・有線放送権・送信可能可権も許諾されたものとみなされます(92条2項、92条の2第2項)。また放送権・有線放送権の許諾を受けたときは、その放送のために録音・録画することが認められます(放送等のための固定:93条)。
著作隣接権の保護期間
著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年間であるのに対し、著作隣接権の保護期間は、実演や放送を行ったときから50年間です。また著作隣接権者もまた著作権者と同様、人格権を有し、氏名表示権・同一性保持権を有します。そのため、実演の録音物等を実演家のクレジット表記なく使用することや許諾なく改変したりすることは、著作隣接権者の人格権の侵害となります。
実演家の権利
「実演家」とは「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」とされています。俳優は脚本という著作物を演技により公衆に伝達しており、歌手は楽曲という著作物を歌唱により公衆に伝達しているため、著作隣接権者となります。また「実演を指揮し、又は演出する者」も実演家に含まれるため、交響楽団の指揮者や舞台の演出家等も、実演家としての権利を有します。
録音録画権
実演家の権利の内容としては、録音権・録画権・放送権・有線放送権・送信可能可権・譲渡権・貸与権があります。そのため例えば俳優の許諾なく、その実演を録音したり、生中継したり、録音物を放送したりすることは、これらの権利の侵害となります。
使用料請求権
また「二次使用料請求権」・「貸レコード報酬請求権」も認められています。二次使用料請求権とは、商業用レコードが放送・有線放送で使用された場合にその使用料を請求できる権利であり、貸レコード報酬請求権とは、貸レコード業者から報酬を受け取ることができる権利です。いずれの権利も、実演家個人により請求することは認められておらず、「日本芸能実演家団体協議会」によってのみ行使することができます(95条5項・95条の3第4項)。
レコード製作者の権利
「レコード製作者」とは「レコードに固定されている音を最初に固定した者」とされています。「固定」とは録音や録画のようにその場限りの実演をレコード等に記録することを指します。そのため実演を直接録音した者が、レコード製作者に当たることとなります。レコード製作者の権利の内容としては、複製権・送信可能可権・譲渡権・貸与権があります。また「二次使用料請求権」・「貸レコード報酬請求権」も認められています。これらの権利は、「日本レコード協会」によってのみ行使することができます(97条3項・97条の3第5項)。
(有線)放送事業者の権利
「(有線)放送事業者」とは「(有線)放送を業として行う者」をいうとされています。テレビ局やラジオ局、ケーブルテレビ事業者などがこれにあたります。(有線)放送事業者の権利の内容として、複製権・(有線)放送権・再(有線)放送権・放送伝達権があります。このうち「放送伝達権」とは、放送の内容を超大型テレビ,オーロラビジョン等の装置によって公衆に伝達することを内容とする権利です。街頭のビルに設置されている大型画面等がこれにあたります。
著作隣接権と画像生成
著作隣接権は、上記のように実演や放送の対象となる著作物に関して認められる権利であるため、生成画像に関して著作隣接権が生じる場合は現段階ではあまり考えられないと言えます。ただし他の著作隣接権者との関係においては、例えばテレビアニメのアニメキャラクター等に関しては、その原作者や制作会社の著作権の他、放送局の著作隣接権が生じているため、これらを基にした生成画像に関しては、放送局の有する同一性保持権(人格権)や、複製権等の権利の対象となっている場合があります。そのため、こうしたアニメキャラクター等の生成画像の使用については、放送局の許諾が必要となる場合も考えられます。
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